図書館での恋
2017/07/04
彼と出会ったのは受験勉強に通っていた図書館でした。彼も同じように勉強に通っていたのです。彼はとても姿勢がよく、ほどよく体が引き締まっていて自然と目を惹きつけられました。
彼と直接話したことはなかったのですが、彼と友人たちの会話から、彼が相当に勉強熱心であることを知りました。だから私も、もっと頑張ろうと思えました。
たまに図書館の廊下で、彼とすれ違うのが楽しみでした。会えなかった日にはがっかりしましたが、彼の名前も知らず、まわりの人に聞くこともできなかったので、ただ次に会える日を待っていたのです。彼も、私と図書館でよく顔を合わせることは気づいていたと思います。
時折目が合うことはありましたが、それだけで、話しかけてくれることはありませんでした。そのころの私は、昼間は図書館に通って勉強、夕方は自宅に帰ってまた勉強、というまさに勉強付けの日々でした。余裕は全くありませんでしたが、めげずに図書館通いと勉強を続けられたのは、彼に会うという楽しみがあったおかげかもしれません。
そのころは、多くの受験生が生活リズムの乱れや、体調管理に悩みます。私は毎朝起きて図書館に通い続けることを、苦も無く続けられたのです。
数カ月後、無事に合格すると私は図書館に行くこともなくなり、引っ越して別の町で生活することになりました。そのあとは、彼と会うこともなくなり、彼がどこで暮らしているのかもわかりません。新しい町ではとても忙しくて、元の町に行くこともありませんでした。
大人になった今、振り返ってみると、もっと気軽に声をかけておしゃべりすればよかった、と思います。カフェやレストラン、飛行機やバスでも、隣り合わせた人同士で話すことがありますものね。でもそういうことができるようになったのは、もっとあとになってからです。
あのころは、できませんでした。ひょっとして、おしゃべりに応じてくださる方たちも、同じような経験をして、出会いを大事にするようになったのかもしれません。
今だって、だれとでもすぐに仲良くなれるわけではありません。ただ、人が集まる場では穏やかな表情を作って挨拶したり、初対面のときに聞いたことを覚えておいて、次に会ったときに関連した質問をしたり、出会いをそれっきりにしない工夫をするようになりました。
一度もお話できず、離れてしまった彼との出来事は残念でしたが、その反省をこうして生かせるようになったので、感謝しています。